原画情報: |
164 × 82 cm 1856年 オルセー美術館 |
作者紹介: |
ジャン・オーギュスト・ドミニク・アングル(Jean-Auguste-Dominique Ingres, 1780年8月29日 - 1867年1月14日)は、フランスの画家。19世紀前半、当時台頭してきたドラクロワらのロマン主義絵画に対抗し、ダヴィッドから新古典主義を継承、古典主義的な絵画の牙城を守った。
アングルは絵画における最大の構成要素はデッサンであると考えた。その結果、色彩や明暗、構図よりも形態が重視され、安定した画面を構成した。その作風は、イタリア・ルネサンスの古典を範と仰ぎ、写実を基礎としながらも、独自の美意識をもって画面を構成している。『グランド・オダリスク』に登場する、観者に背中を向けた裸婦は、冷静に観察すると胴が異常に長く、通常の人体の比例とは全く異なっている。同時代の批評家からは「この女は脊椎骨の数が普通の人間より3本多い」などと揶揄されたこの作品は、アングルが自然を忠実に模写することよりも、自分の美意識に沿って画面を構成することを重視していたことを示している。こうした「復古的でアカデミックでありながら新しい」態度は、同時代のダヴィッドなどのほか、近現代の画家にも影響を与えた。印象派のドガやルノワールをはじめ、アカデミスムとはもっとも無縁と思われるセザンヌ、マティス、ピカソらの画家にもその影響は及んでいる。
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作品紹介: |
画家のみならず新古典主義における裸婦の傑作としても名高い本作は、アングルがローマ賞受賞後、20年近く滞在したイタリアのフィレンツェで、おそらくは1820年頃から制作が開始された、≪泉≫の擬人像としての裸婦作品である(※≪泉≫の擬人化の典拠として14世紀の彫刻家ジャン・グージョンによる『イノサン噴水の浮き彫り彫刻』などが挙げられている)。画面中央に配される泉の擬人像は正面を向きつつ首を右側に傾げ、下がった左肩に水が流れ出る水瓶を乗せながら全身をS字にしてバランスをとってる。この体の重心を片方(本作では左足)にのせ、もう片方(本作では右足)を遊脚にすることで全身をS字形に流曲させる姿態≪コントラポスト≫は、古代ギリシャの彫刻家が祖とされ、ルネサンス期の巨匠ミケランジェロも傑作『ダヴィデ像(ダビデ像)』で用いるなど、古典的かつ伝統的な姿態構図として芸術家の間では一般化しており、また本作はそれを用いた新古典主義時代の典型的な作品としても広く知られる。皺ひとつない大理石を思わせる滑らかな肌や皮膚、均整的で理想化を感じさせる調和的な裸婦の肉体、無駄がなく明快で理知的な構図と正面性、動きの少ない安定的な画面構成などの点からも本作は、芸術におけるひとつの完成形として後世の画家たちに多大な影響を与えた。なお本作は1820年頃から制作が開始されているものの、アングルが晩年期に入って間もない1856年に画家の弟子らによって完成させられた。 |